蹈鞴川
るか
蹈鞴川
それが、何処の、監獄の壁から吹きつけてくる風なのか、
匂いなのか、鉞の一閃なのか、夢は深海の泥土に塗り潰されていて、
傷のように甘い、一瞬の移ろいをへて、妹が何度でも私の、
背中を切りつける。私は、熟しきった柑橘を両の頬に受け、既に
硝子状に磨かれた風景に、嗚咽のように噎びながら、流し込まれる
溶銑の傍らにいる。宙吊りに晒された目は乾涸びた午睡の膜に、優しく
包まれて、楽土から射し入る熱線を浴び、火照りながら、顛動する。
だれがおまえの踝を焼いたか
漁礁をめぐる交響楽が突堤から覗き込む女の虹である
海を呼ぶ人よ
そんなにかなしい
口笛をやめよ。
おまえが帰る背に
遣りきれぬ靴の
重量があり
踏みしだかれた苦汁が
世界という叫びを
郷愁へ
突き落すから。
妹よ われら、
時代の絶景をくぐり
今日、
深く犯されたおまえの傍らで
忘れられた詩行を
何遍も何遍も
囁くだろう、
雪は海に降る
雪は海に降る、
(穏やかな沈黙の椅子に、
しろかねの涙、ながれ
そこに私はいない、
ある 麗らかな
日没の
風景である、)