戦い
麻生ゆり

 イルカとシャチのどちらが優れているか、イルカ派対シャチ派の大論戦は熾烈を極めた。
「イルカは優美だ。あの計算しつくされた流線型はまさに自然が生み出した芸術だ! それに比べてシャチのあのだぼっとした体はどうだ。トドと同じ大きさにしたら区別がつかないんじゃないか?」
「シャチはあんな大きな体にふさわしく大きな脳を持っている。頭のいいのはシャチのほうさ。イルカは見た目は確かにカワイイが、アイドルと一緒。大して頭がいいとは思えないな。シャチは尾びれでコミュニケーションとるんだぜ!」
「イルカは優しい生き物だ! シャチなんか『海のギャング』なんて呼ばれて獰猛じゃないか! ペンギンでもアシカでも、目の前に餌となる生き物がいたら何でも食う、単なる大食いじゃないのか?」
「食べるものが違うだけでイルカは優しいとは言えないんじゃないかしら? イルカだって好きに魚を食べてるじゃないの。食べるもの云々はイルカもシャチも一緒よ」
「その議論! ちょっと待ったぁ!」
 会議場にぞろぞろと見知らぬ人たちが入ってきた。
「………」
「………」
 イルカ派の人たちもシャチ派の人たちも沈黙して彼らを見やった。
「イルカもシャチも大したこたぁない! クジラが一番だ!」

 こうして、イルカ派対シャチ派対クジラ派の三つ巴の論議は延々と続けられた。


散文(批評随筆小説等) 戦い Copyright 麻生ゆり 2007-12-16 18:38:01
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