突付かれ、切り落とされ、失われていく
鴫澤初音

屋上で一人外を眺めていると頭上後方を蝉のじーっと言う声が
ゆっくりアーチを描いていって、手すりでその声が
とまった。私の左の方だった。カラスに羽根をくわられていた。
じーっと、言い続けていた。カラスが蝉を足で押さえつけ、
最初の突付きを加えるまで、じーっと言い続けていた。
カラスが突付くと、クシャ、クシャという音がした。
その音が終わると、弱くなった声で、じーっと言った。
それからまた、クシャ、クシャと突付く音がして、
短く弱く、蝉がじーっと言った。
それからまた、クシャ、クシャと音がして、
何も聞えなくなった。
私はそちらを見ることができずに、
ただ、
クシャクシャ、じーっ、と言う音だけが、
私の、耳に、
焼き付き続けて




昨日読んだ新聞記事、
シエラレオネの男性が反乱軍の兵士に、
殺されそうになり、(それはあたかも小学校の注射みたいに)
順番に、前の男達が腕を切り落とされたあと、殺されるのをみて、
殺さないでくれと泣いて嘆願した。
兵士達はその男性の両腕のひじから先を切り落とした。
男性は、地面に落ちた自分の右手の指が
まだ動いていたのを覚えている、と言った。



失われていく、失われていく、わたしのせいですか、かみさま、わたしのせいですか


未詩・独白 突付かれ、切り落とされ、失われていく Copyright 鴫澤初音 2007-12-14 20:42:58
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