突付かれ、切り落とされ、失われていく
鴫澤初音
屋上で一人外を眺めていると頭上後方を蝉のじーっと言う声が
ゆっくりアーチを描いていって、手すりでその声が
とまった。私の左の方だった。カラスに羽根をくわられていた。
じーっと、言い続けていた。カラスが蝉を足で押さえつけ、
最初の突付きを加えるまで、じーっと言い続けていた。
カラスが突付くと、クシャ、クシャという音がした。
その音が終わると、弱くなった声で、じーっと言った。
それからまた、クシャ、クシャと突付く音がして、
短く弱く、蝉がじーっと言った。
それからまた、クシャ、クシャと音がして、
何も聞えなくなった。
私はそちらを見ることができずに、
ただ、
クシャクシャ、じーっ、と言う音だけが、
私の、耳に、
焼き付き続けて
昨日読んだ新聞記事、
シエラレオネの男性が反乱軍の兵士に、
殺されそうになり、(それはあたかも小学校の注射みたいに)
順番に、前の男達が腕を切り落とされたあと、殺されるのをみて、
殺さないでくれと泣いて嘆願した。
兵士達はその男性の両腕のひじから先を切り落とした。
男性は、地面に落ちた自分の右手の指が
まだ動いていたのを覚えている、と言った。
失われていく、失われていく、わたしのせいですか、かみさま、わたしのせいですか