夕刻・聖蹟桜ヶ丘
たちばなまこと
自転車に飛び乗って聖蹟桜ヶ丘へと漕ぎ出す
夕刻は燃えはじめていて
ペンタブレットを壊してくれた天使に少し感謝して
関戸橋
私みたいに粋がった多摩川を見下ろした
嵐がえぐった流域は
新しく生まれたまるで知らないような顔で
産声で
ジャバジャバと遠い雲へと泣く
自転車が乗せているのは
密室の感情
おしゃべりを許されない舌
中指のペンだこが裸で踊りたがっている
みぞおちの内側で波打つ壁の
眉間への響きは計り知れない
夜の序章
駐輪場
せいせきC館を駆け上がる
B館への歩道橋に立ちすくむ大人たちの向こう
街路樹に吸い込まれながらむくどりたちが
カーニバルをやっている
背骨が鳴いてざわざわとよろこび
饒舌は宿り木にやわらかい嫉妬をする
A館の家電店にはさんざん待たされて
最後には在庫が無くて
ペンタブレットが買えなかった
買ったのは3階の画材店で
手のひらサイズのクロッキーブックと
紺色のジグノ
内壁はずいぶん熱く波打ってしまっていたから
試し書きの1本をレジに出していた
店員さんが走っていって新品に換えてくれた
1階のストアを抜けてスクエアへと向かう
空が燃えているずうっと下で焦げながら大人は
炎に胸をわし掴まれ
携帯を空へかかげ
アスファルトから蒸発する雨に揺らいでいて
私も信号待ち胸の前で小さく携帯を開き
青信号に急ぎ足で暖色の揺らぎをとらえた
2007.9