真っ白い画用紙に
狩心

真っ白い画用紙に
夢を描くな
人物を描くな
風景を描け
風景を描けば
人物は自然と生まれてくる
夢を見るのは貴方じゃない
夢を見るのは 絵の中の人物だ

人物が歩くと
風景は加速する
風が吹き 木の葉が舞う
誰かが建物に
ペンキで色を塗っている
強風が来たら
すぐに倒れてしまいそうな
華奢な梯子の上で

風景が変化すると
体形も変化する
お気に入りだった服は
似合わなくなる
新しい服を買いに
人物は建物の中へ

建物の入口で
音楽を奏でていた影が
剥がれ落ちる
ギターケースに少しの硬貨
幼い子供が 家で待っているのだ

影を失った体が
階段を上って
建物を揺らす
人物の姿は見えない
蛍光灯の光が窓に当たって、建物の内部を透かす
太陽の光が窓に当たって、町の風景を反射する
内と外、切り替る速度が増して、サブリミナル効果になった時
窓は割れて、町中の人々が、建物の中へ吸い込まれる

屋上で遊ぶ子供達の声が 天と地を結び
大通りを走り抜ける車が 人と物を運ぶ
盲目の老人が 道を横切ろうとして
福与かな女性が右手を
疲れたサラリーマンが左手を 握った

渡り終えた三人は溶け合い、一人になる
それを目撃した少年が、戦車の上で愛と平和を叫ぶと
歩道に溢れ返った人々が絶叫し、溶解し、結合していく、何度も
同じ音を繰り返しながら、限りなく加速する、音楽のように

画家はまだ
絵の中の人物に
目を与えていない
彼らは 閉じた瞼の上を 指でゆっくりとなぞる
彼らは 永遠に夢の中の住人 音になって弾ける

本当の画用紙には
人物が一人も描かれていない

盲目の画家が 私の絵は音だ と言う
手元に置かれた画用紙に 広大な余白
枯れ木が一つ
風が吹き 木の葉が舞う

揺れる椅子に座っていた画家は 音もなく消えて
いつの間にか 絵の中の余白に 佇んでいる
それを見ていた少年が
余白がない都会の町に 風の流れを描き始める

風景を描くと
溶け出したはずの人々が
一人ずつ再生してくる
貴方の町に
風は吹いているか


自由詩 真っ白い画用紙に Copyright 狩心 2007-12-13 10:38:03
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