鴫澤初音

生意気なおっぱい、生意気なおっぱい。ああ!
ユキオはそう言う。 
小ぶりなおっぱい、ああ!生意気なこっぱい!

そう、柔らかくっちゃいけないね!
タケシはそう言う。 
ちょうどいい硬さが必要、まるで、蕾みのような、さ。


 ドーソードー、宇宙船みたい。生気無い音がくるくる回る。

 ドーソードー、ここはレトロカフェ。


タケシとユキオは「生意気なこっぱい」を探しにカフェを飛びだして。
手に山ほどのポスター、女子高の門の前に立つ。
なぜ女子高かというとそれは生意気なこっぱいは女子高生までの特権だからだ。簡単な理由。
ユキオとタケシのズボンの下にはいきり立ったペニス。
配るポスターには「セックスしませんか」。
とてもストレートで、とてもスイートだ。
そう思いません?

でもすこし恥ずかしいので。
内向きに折って渡す。
電話番号が書いてあって、気になった子は電話してきてくれる筈なんだ。


けれど彼らの目の前を通っていく、
髪の毛が長くって、ミニスカートの女の子達は、
生意気にかつ颯爽と通っていくだけで、
彼らを振り向こうともしない。


「ビラを取られないってまるでなんだか人間として否定されたような気がするな」
とユキオは言う。
「そうだね」
とタケシが言う。


私は高校生でも何でもないけれど、
偶然その高校の前を通り過ぎて、
そんな会話を聞いてしまったからには、
かわいそうでビラをもらわないわけにはいかない。


だけどたぶん電話はしない。


* * *


サチエはその朝奇妙な夢を見て起きた。

夢、桜が満開の中を雪が降り頻り、
隣にはいつもの如くノワケがいた。
ノワケは微笑を湛えながらサチエとともに
傘もささずに雪の中を歩いていて
唐突に倒れて嘔吐し失禁して
仰向けに震えているのだった。
雪が二人の上に、どんどんと積もっていた。
そこで、終わる。

サチエは、目覚めてからもう一度
ベッドに横になり、眼を閉じた。
続きを見たい、寒さの中で雪を頬に感じながら
倒れるノワケを抱き起こしたかった、なぜ
あんなところで終わったのだろう。
とりかえしがつかない、サチエは泣きたくなった。

母親が階下から、朝を呼んでいる。
仕方なく、起きあがり日常を始めることにした。
夢を、サチエは愛していて、
眠ることは何より好きだった、それも深い眠りではなく
ほとんど目覚めているような浅い、眠りだった。

学校へ行く為の、壁にかかった服を身につける。
ああ ノワケが倒れたあの恍惚のような顔と
湯気がたっていたズボン 震えていた足首や
肩を もう一度 見たかった

バスを降りて学校へ歩いていく。
同じ制服がたくさん横を通りすぎていった。
校門に近づくと、脇に老人が二人赤いTシャツに細すぎる
ジーパンをはいて ビラを配っているのが見えた。
誰もが決まったように無視していて
サチエは少し不思議に眼を見開くけれど、
老人たちのにやにやとつり上がる唇に嫌悪を催した。

近くなってくる二人の老人は何も言わずに
ビラを配っていた。何が書いてあるのだろう、
サチエはそう考えたが、頭の隅では朝の夢を反芻しながら
夢見ごちで配られたビラを受け取り鞄に入れた。


散文(批評随筆小説等)Copyright 鴫澤初音 2007-12-12 22:50:21
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