牛乳の糸 
服部 剛

「トイレはどこですか?」 

細い目をぱちりと開き 
丁寧に差し出す手のひらで 
トイレの場所を教えてくれた 
美術館のスーツを着た女の子 

チャックをしめて 
トイレから出ていくと 
両手を前に重ね 
眠そうに立っていた 

頼まれもしないのに 
丸い頭の黒髪を 
なんだかよしよししたくなる 

睡魔とたたかいながら立つ
女の子の向かいの白壁に掛かる 
木枠の額縁に「牛乳を注ぐ女」 

窓から漏れるひかりの部屋で 
黄色い服に身を包む婦人 

両手に抱えた 
壺から器へ 
牛乳の糸がしたたる  





自由詩 牛乳の糸  Copyright 服部 剛 2007-12-09 21:42:14
notebook Home