餓鬼を切り刻め
ホロウ・シカエルボク




今度は許さない、殺し損ねた俺自身の
殺し損ねた俺自身の中の餓鬼
やたら飢えて、やたら喰い散らかす、喰い損ねたもののことをいつまでも話す
やつの喰い残したものが喉元まで上がってきて俺自身の消化を妨げる
今度ばかりは許さない、不確実な要素のままで分離した俺自身
神に見放されたヒルコのように胃袋にしぶとく
胃袋にしぶとく吸い付いてしまったある種の俺
その俺の吐く息が誰も彼もを俺から遠ざけようとしている、一度目をやり損ねたら
とことん、断層は深くなるばかりだぜ
それは誰かを喰らうために大きく開けられたままの巨人の口のようだ、そうだ
世界には際限なく餓鬼が潜んでいやがる、俺の口腔にも、誰かの肩口にも
求めるものの違いで潜む位置が変わるのだ、その法則は際限なく飢えたやつでないと理解できない、俺はそこそこ飢えているけれども
際限なくなるまでこらえていることは出来ない、純度の高い餓鬼になんかなれない、餓鬼を見たことがあるか
飢えた腹はものすごく膨らむらしいぜ、そしていびつな膨れ方をするんだ
際限なく飢えた後では欲望の形は畸形化するらしい、見ろ、着ているものを捲り上げて
お前の胃袋の辺りをようく確かめてみろ、角のような
肉体に置くにはあまりにも不自然な何かが飛び出したりしていないかい、時には見えるはずさ
俺たちの正常はある意味でとても畸形だもの、それがどういう意味だか判るか?
自分のうちにそれを認める前に気にしなくちゃいけない物事が多すぎるからさ、自分と照らし合わせたときに
正しいと思える誰かは非常に自分に近しい内面を持った誰かしか居ないはずだ
そういう符号を
正常と呼んだほうがそいつらには差し支えないのさ、あらゆる人間に適応するものなどこの世にはないのだ
あるとしてもフリーサイズの靴下とかそんなものばかりさ、何かを知ろうとするときにはてんで役に立たない
餓鬼を取り込もうとしているのかい、餓鬼になろうとしているのかい?
お前の歯にこびりついている食べかすのシリアルナンバーを確認してみろよ、きっとこの世にはあまりない印字のはずだから
ただ飢えていただけのものは死んでも飢え続ける、なぜ、飢えていたのか
そのわけを知ろうとすることを試みなかったせいだ、俺の胃袋にも餓鬼は潜んでいる、餓鬼は余計なものばかり喰いたがる、しかもその中に詩になりそうなものはひとつまみもありはしない
だから俺はこれを考えずに書いている、もちろん時々手を止めるところもあるけれど
それは書くために考えているわけじゃない、それはちょっとしたリズムの調整みたいなものなのだ、全身がタイプライターになる感じって判るかい、半ば適当にリモコンで指先をあちらこちらに操作されてるような、そんな感覚を楽しんでいるんだ、そこそこ、餓鬼ほども重くはない程度に飢えながらね
一線を越えることはよくない場合だってある、そういう示唆が餓鬼のいびつな腹の中には隠されている、俺はその腹を夢想しながら、それならばどうして俺たちは飢えてしまうのだろうと考える
そんなことについてどれだけ考えたところで、機能はアクセントであるなんてくだらない言い回ししか浮かんではこないのだけれど
今度は許さない、そのいびつな腹を割いて二度と満腹になることが出来ないようなそんなシステムを構築してやろうじゃないか落ちた天使ども
隠してあったやつだ、隠してあったやつだ、いつまでたっても消化される気配がないと思ったら餓鬼どもがこっそりくすねていやがった
卑しいものどもは空腹を満たすためならなんだってするんだ、餓鬼の腹を、餓鬼の腹を長いナイフで
蛙の解剖のように
罪悪感をすっと飛ばかして
ごらんよ、こいつの腹に詰まっているもののおぞましさ、長く長くかけてようやく消化をされ始めたばかりの
餓鬼の腹にたまったものの不快な色合い、まてよ、こいつらすでに腹は満たされているんじゃないのか?こんなに胃袋にものが詰まっているのに、飢えるなんてありえないはず、だけど
何かを目論んでいる、ある種の俺のような餓鬼、腹に石を詰めろ




懐かしいな、童話は意外と役に立つぜ




自由詩 餓鬼を切り刻め Copyright ホロウ・シカエルボク 2007-12-08 00:08:42
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