シン
風季


プリントを落とし
小さい彫刻刀を握る
傾いているのは体ではなくて心ではなくて時計の針
何もが引力を持ち始める

つま先の下でどよめいている川音
  水が果てへと呼んでいるのかしら
流れる空に視界を邪魔されて
  たしかに私は 太陽に、どいてほしいと思ったけれど

”此処では呼吸が固まってしまうのかもしれない”

とうに固まっている腕、人間の動きをしてくださいな
がたがたとぶれる瞳を片手で少し押さえ
まだ帰るわけに行かないからどうか、どうにかと点滅している

今、ランプが消えていった
懐かしいこの心音は十年も前の鼓動ですね

街を流れながら
気付かれないように私は心だけになり
弱い声で電話を架ける
黒い手袋が雪に好かれている
誰かが気付いた
誰もが気付いた


 さ け ぶ あ の こ

包まれたがっていた
ここへおいで

君は私ではないのだから
わかる表情で迷うのではなくて
わかりきった足取りで迷路を抜け
現れずに駆けてきて私に浸透する

すべり
つまづきすべり
つまづき
ぶつかりはじけて
どちらかが
どちらでも

あたたかい
ただ、あたたかい
とうとう君の外側になった

終点の空に目を開く
指の付け根から眩暈がほんのすこしあふれた


未詩・独白 シン Copyright 風季 2007-12-07 13:35:45
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