シン
風季
プリントを落とし
小さい彫刻刀を握る
傾いているのは体ではなくて心ではなくて時計の針
何もが引力を持ち始める
つま先の下でどよめいている川音
水が果てへと呼んでいるのかしら
流れる空に視界を邪魔されて
たしかに私は 太陽に、どいてほしいと思ったけれど
”此処では呼吸が固まってしまうのかもしれない”
とうに固まっている腕、人間の動きをしてくださいな
がたがたとぶれる瞳を片手で少し押さえ
まだ帰るわけに行かないからどうか、どうにかと点滅している
今、ランプが消えていった
懐かしいこの心音は十年も前の鼓動ですね
街を流れながら
気付かれないように私は心だけになり
弱い声で電話を架ける
黒い手袋が雪に好かれている
誰かが気付いた
誰もが気付いた
さ け ぶ あ の こ
包まれたがっていた
ここへおいで
君は私ではないのだから
わかる表情で迷うのではなくて
わかりきった足取りで迷路を抜け
現れずに駆けてきて私に浸透する
すべり
つまづきすべり
つまづき
ぶつかりはじけて
どちらかが
どちらでも
あたたかい
ただ、あたたかい
とうとう君の外側になった
終点の空に目を開く
指の付け根から眩暈がほんのすこしあふれた