自分を責めるのが得意な女による自分を慰めるのが下手な女のための詩
涙(ルイ)

人の悪口云ってはいけません
人に迷惑かけてはいけません
すぐに謝ってはいけません
意地を通してはいけません
愚痴をこぼしてはいけません
聞かされる人のことを考えなさい
人前で泣いてはいけません
人前で泣くことは弱虫のすることです
だからいつでも笑っていなさい
どんなにつらくても笑っていなさい
女は可愛くなくてはいけません
可愛くない女は愛されません


上記が 私が母から教えられた
してはいけないことのリストです
他にもまだまだたくさんありますが ここでは省略します
かあさん 私ももう29歳になります
云わなくてもいいことをついつい口走っては
人に嫌われてばかりいます
おまけに現在 鬱病にかかって 
この頃じゃ 幻聴まで聞こえる始末です


お前 自分に価値のあるとか思ってんだろ
お前のこと誰か必要な奴がいるとでも思ってんだろ
お前ホントに図々しいな
ホントにホント終わってんな
お前なんかを必要としてる奴なんか誰もいないんだよ
お前なんかなんの価値もないし
見捨てられたって当然の人間なんだよ
もたもたしてないでさっさと死んじまえよ ホラホラホラ

やだよそんなの 
だってまだ やりたいこといっぱいあるしさ
山崎まさよしのライブにだって行きたいしさ
太宰の記念館にも寺山の記念館にも行ってみたいしさ
会いたい人だっているしさ
観たい映画も 読みたい本もいっぱいあるしさ
なにより私には書きたいことが
まだまだいっぱいあるし

それにそれにさあ
死ぬなんておっかないしさ
だから だからさあ
解ってるよ解ってるんだよそれくらい
誰も私のことなんか必要としてないし
価値のある人間だなんてこれっぽっちも思ってないよ
見捨てられたって当然の人間と そう思ってるよ
ああ もううるさいなあ 
解ったよ 解ったってだから
だから頼むよ お願いしますよ
もうどっか消えちゃってくださいよ
いなくなっちゃってくださいよ


追い払おうとしてもしても
何度も何回も繰り返し繰り返し
しつこく耳鳴りのように云い続けてくるんです


もうねホント 泣いたほうがいいんだか
笑っちゃったほうがいいんだか
抗鬱剤 飲んでるせいかもしれないけれど
自分でも何がなんだかわけがわからないですよ
呆れるくらい みっともなく生きちゃってますよ


かあさん 愚痴はこぼすなとあなたは仰いましたが
あの頃あなたが 子供の私に聞かせていたのは
あれは一体 なんだったのでしょうね


私 人前で泣くことが怖いのです
だってそれは弱みになるんでしょ
だけどだけどね人前で笑うのはもっと怖いのです
他人に心の中を覗かれるのが どうしようもなく恐ろしいから
だからいつの間にか なんの表情もない
面白くもおかしくもない女になってしまいました


知っていますか
子供の頃に「可愛い 可愛い」と云われて育った子は
大人になっても ちゃんと自分の「可愛らしさ」を自覚できるんだそうですよ
私が自分の可愛いところを自覚できないのは
一体 どういうわけなのでしょうね


ああああ もうこれ以上は云うの止めにします
云ったって虚しくなるばかりだし
今更どうにかなるわけでもないし
それにそれに それを云ったからって別に
私の性格が突然明るくなるわけでもなんでもないですから
だからもう これ以上云うのは止めにします


でもさでもさあかあさん 最後にひとつだけ 
ひとつだけ 教えてほしいことがあるのです
どうしても 教えてほしいことがあるのです
私ね子供の頃から
とおさんに怒鳴られ殴られ蹴られて
部屋の隅っこで声を殺して泣いているあなたを
いっつもいっつも見てきました
だからねかあさん あなたの悲しみや怒りは
解りすぎるくらい解ってるつもりなのです
あなたが私をまっすぐに見れない気持ちも
解らないわけではないのです



でもさでもさあ私 あなたの云うとおり 
ずっと あなたの味方してきたじゃない
あなたの云うとおりに 
聞き分けのいい いい子にしてきたじゃない
なのに なのにどうしてですか
どうしてまだ 許してはくれないのですか
どうしてまだ そんな眼で私を睨むのですか



そんなに私が憎いですか



自由詩 自分を責めるのが得意な女による自分を慰めるのが下手な女のための詩 Copyright 涙(ルイ) 2007-12-07 06:43:30
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