断片的回想
宇宙

恋人たちのパレート最適の解を求めて
神戸商業大学の屋上で接吻する

シュレディンガーの猫を抱いて
フラクタルな広葉樹の枝越しに月を眺める

終電後の摩耶ケーブル
猫の眼球で月の光を採集し
山頂駅まで漆黒のランデ・ブー
廃屋でハロウィンパーティー

フロイトのリビドーを捨てて
ユングの集合無意識にしがみつき
自己啓発セミナーで破産する

太宰が入院していた湘南の病院で
卓球をしながら
思想洗脳された溥儀を想う

隔離病棟の磔台の上で化石し
百八回目の『完全自殺マニュアル』を読了する

七里ヶ浜で絶叫する少女に
酸性雨が降り注ぐ

北鎌倉の人力車に揺られながら
看護婦はキャバクラ嬢への転職を決意する

独裁者たちは気の向くまま
喧騒と嬌声の空爆を繰り返す

アウシュヴィッツの蜂の巣で
ヴェーダの響きを鼓膜に押し当てる

乳房の先端が瞼に触れて
シヴァ神の微笑が瞳を支配する

交差点の明滅する信号機の下で
左右の頬が鈍く振動し
コンタクトレンズが赤を映して飛び散る

『ツァラトゥストラはかく語りき』を
一葉ずつ切り裂きながら
山谷の教会で讃美歌を歌う


自由詩 断片的回想 Copyright 宇宙 2007-12-07 06:40:41
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