マーリーゴールドの紳士
エチカ
ある夜だった
マリーゴールドが揺れている
電車の中で窓ガラスに映るライトが煌々と
収縮をはじめてしまっている
不気味なほどに煌々と
シガレットの香りといっしょに
紳士の姿は泣いている
あなたに髭がないのが残念だ
耳がないのが残念だ
それなのに
あなたに杖があるのがおもしろい
どこからきこえてきたのか笑い声
あれ
あなた
目もないのですね
と
そうひとこと
マリーゴールドが揺れるたび
紳士も一緒に揺れている
電車はひらりといつまでも
煌々としたきらめきを背負いながら
とぼけて遠くへ運んでゆく
やはりあなたには
マリーゴールドの花言葉がよく似合うと
夜のくせにおしゃべりな声
さてそれじゃ と
紳士はまったく
ホームに降りた