父の両手 
服部 剛

混みあう電車のなかに 
何もわからぬ少年が 
瞳を閉じた 
父の両手につつまれている 

車窓の外は 
今日という日を照らす
太陽を背に 
一羽のとびの黒影が 
翼を広げている 

ぼくが脇に抱えた鞄の 
蓋の隙間に覗く 
本の表紙は 
襤褸ぼろ布を身にまとい 
帰って来た放蕩息子 
父のふところに顔をうずめている

瞳を閉じた父は 
破れた服の肌蹴た肩に 
両手を置いて 
項垂うなだれ頬に涙の伝う 
汚れた我が子を 
世界に一つの宝のように 
抱き寄せる 

大人になった今も 
ふいに感じる

ぼくをつつむ 
見えない誰かの両手を 





自由詩 父の両手  Copyright 服部 剛 2007-12-03 22:25:11
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