光/運動
サトリイハ

1.
硬質で透明な液体に浸されて浮かんでは沈む体、ぼやけて視える太陽は遠いだけで優しくなんかないから目を凝らす。透明な膜の彼方に遠い光のまるが、小さいまんまるが徐々に膨らんで垂れてゆくどろりは、あたしが浮かんでいる液体へ近づくにつれて重さを増してゆっくりになる。重たくなった光の粘体は液体の表面に辿り着くと、さらにゆっくりと仰向けのあたしの横を通り過ぎ、沈んでゆき、徐々に光を失い暗い引力となり、液体を飲み込む暗い唇になるのだろう、目をつむり背中に感じる唇の温度、暗い温度。あたしは呼吸し循環する液体であり液体を呼吸し循環するあたしの流れる、の動き、揺れる。

目をあけると光は視界を覆うほどに大きく膨らんでおりそこかしこから粘体を垂らしている、垂らしてはまた膨らむを繰り返しどんどん大きくなり光とあたしの距離は狭まってゆく粘体が重く垂れてくる、光の大きいとの距離が短すぎて断絶される回路、光の大きいが目に浸食する、光の大きいのせいであたしの体の表側はとても熱い。熱い、目をぎゅっとつむる熱い、痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い呼吸呼吸呼吸コキュウコキュウコキュウコココココココココココ呼吸、

2.
暗い波が寄せる海岸で白い石を拾う。なるべく小さいものを選ぶ。基準は、白い/てのひらで包める大きさ/おしゃべりしすぎないこと。石をポケットに入れる。歩く。海岸の終わりが見えなくてポケットはすぐにいっぱいになってしまう。白い石をひとつずつこぼしながらずっと歩く。ポケットが空になったらまた白い石を拾いポケットに入れる。繰り返す。夜空の幕を引き上げる人がいなくなってしまってここのところ、石より光るものを見ていない。歩く。拾う。こぼす。歩く。拾う。波は時おり、ひっそりとささやき、奥ゆかしく指をのばしてあたしのくるぶしを触り、去ってゆく。歩く。拾う。こぼす。思い出す。思い出す。オボエテル。こぼす。拾う。思い出す。オマジナイ。拾う。こぼす。歩く。サヨウナラ。歩く

3.
靴紐を固く結んだのだから晴れる高い空は四角いのうーんとのびるとあの屋上まで、すぐだから早く早く走らなくちゃ間に合わなくなっちゃうから走る走る手をつないであげてもいいけど、ぜんぶ飛ばしてくんなきゃ、重たい荷物全部飛ばしてくんなきゃ疾走で、雲があと3センチ動くまで疾走で、街を追い越してアスファルト蹴ってぐんぐん走って追いつきたいのどうしても追いつきたいの、今じゃなきゃ間に合わないの今あたしがあたしであるこの時でなくちゃ駄目なんだから屋上から跳んで掴まえたいのあのおっきくてまぶしいやつ!


自由詩 光/運動 Copyright サトリイハ 2007-12-03 01:05:22
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