考える彼女
エチカ
みんな頭の中じゃ手足を飼ってると
彼女は時々考えている
おおきな太陽に
「おはよう」
彼女はそっとつぶやく
理由なんかない
そこにはただ存在するだけだから
道のうえに地球が転がっている
彼女はそれを見る
だけどなぜここにあるのかなんて
きっと考えない
だってそれはそこにあるのだから
彼女は怖かった
それに聞いて欲しかった
何があったのか
どうなったのか
その 過程を
ただ黙って
道に転がる地球みたいに
ただあるがままに
時々 彼女は名前を欲しがった
彼女には名前がないからだ
だけど本当はそんなものいらないということを
彼女は知っていた
彼女はみどりのワンピースがよく似合う
くるくるおどけて笑う
それからよく怒って飛び出していく
彼女はいつも
なにも持たない
それは
旅に出るときも同じだ
大人になる方法を教えてもらった時から
そうだった
教科書には書いてないことも
彼女はたくさん覚えた
やがて彼女は
ひとり歩きをはじめる
悲しみを覚えたり
喜びを開放したり
怒りを飲み込んだり
楽しみに溺れたり
秘密のことをたくさんした
でも何も持たなかった
彼女はずいぶん昔から
死について考えていた
だけどそんなもの考えても無駄だと思った
彼女は知っていた
手足の飼い主について
脳みその行き先について
地球の転がり方について
死について
リンゴの皮むきについて
スパゲティーの食べ方について
知っていることも
考えることも
確認することも
全ては簡単なことだと知っていた
みんな頭の中じゃ手足を飼ってるけど
飼いならしている人間は何人いるんだろうかと
彼女はまた考えている