不安
佐々木妖精

原付の女性は頭から浅い砂利のプールに落ち
彼女は救急車で運ばれ視界から消えた
目撃したのはたったそれきり



知らない十字路で同世代の会社員が跳ねられ
乗用車が反対車線のトラックに突っ込んだ
今この瞬間ニュースにも取り沙汰されない事故が
人が
道が
あり

きみの知らない場所それは無数にあって
きみはそのにおいを感じたら
まばたきをしてはならない

俺はこの角を曲がれない



有機溶剤を脳に溜め込んだ彼はフロントガラスの上で
風船が破裂するようにトルエンを吐き出した
知っているのはたったそれだけのこと



今日もしかして
その歩道にライトバンが突っ込んだかもしれない
確かに青だったと
身体はそれぞれ別々の方角を指し
付き添いの黒い犬は茂みに潜んでいる
今この瞬間そうこれからも
自転車が
赤信号が
存在し

察知できない場所それは無数にある可能性があり
見えない車がクラクションを鳴らして競い合い
透明な歩行者が赤い車道を横切っている
きみは今叫んだ街宣車も聞こえない

俺はこの角を曲がれない

俺はこの角を曲がれない


自由詩 不安 Copyright 佐々木妖精 2007-11-29 13:53:43
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