神話参
はらだよしひろ

手紙を書こうと思います

手紙に包みたい言葉を
一つ
二つ
頭の表面に浮かべては
想いを添えて文字にします

すると
私の声が録音されて
音となって
あなたに届きそうな気がします

私があなたを尊敬するのは
あなたの業績へでもなく
あなたの勇気に対してでもなく
あなたが私たちの心を溶かす
本を書いたからです

時は重なれば化石になります
私たちの積み重ねた棘から滲み出る血も
化石となります

あるのは
(人が生きていたらしい)なんていう
曖昧な歴史だけです

だから「嬉しい」と私の歴史に重ねて
言葉を添えることができることが
本当に嬉しいことなのです

私はあなたを知りません

私たちに秘められた

閉ざされた歴史を
あなたに書いていただいて
本当にありがとうと言いたい

重ねられた傷は
もう自らを語る力さえありません

傷つくように仕向けられた神話によって
母も 私も
言葉を閉ざし
言葉では表現できない感情しか
持ち合わせていません

だから嬉しいのです
嬉しいと言える事が
嬉しいのです
嬉しいと書ける事が
嬉しいのです

そして
「ありがとう」と言えるのが
嬉しいのです

ありがとう

ありがとう

ありがとう




自由詩 神話参 Copyright はらだよしひろ 2007-11-28 00:08:40
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