月と湖面の鏡
渡 ひろこ

月の清けき夜 
折からの澄んだ風が
波のように襲ってくる感情を
鎮めようと
湖面を撫でるように
一陣 通りすぎる


暗い森影からの
ふつふつと湧くざわめきにも
耳をかさず
震える胸の内を
見透かされぬよう
唇を噛みしめひたすら耐える


気づいたら
自らの犬歯が
柔らかい粘膜を突き刺し
滲みでた血を
舌でそっと拭ったら
ふいに涙腺がゆるんでしまった


ポタポタと
どこまで潤沢なのか
枯渇するまで
流線型の滴をこぼして


湖面に金色に映る
月の満面の笑みを
かき消してみようか





いつからか
心を盲てしまった





虚ろなまなこをカッと見開き
本来の姿を映すという
この湖面の鏡に
自分を曝してみる






何が映るか…






人はどのようにして
自己と戦うのだろうか


愛情という
白紙の処方箋を握りしめる
滑稽な自分自身の亡き骸が


湖面のさざ波にゆれる
満月の中に浮かびあがった













自由詩 月と湖面の鏡 Copyright 渡 ひろこ 2007-11-26 20:40:50
notebook Home 戻る