モンスター
藤原有絵

ましろいゴンドラが空の青に冴えて
綺麗だとモンスターが言った

光も音もない腹の中で
私の指が微かに動く


私を喰って消してください


生暖かい風が吹くと
記憶が反響する

私を喰らってくれた
優しいモンスターが
揺れるように小さく泣くから

私はまた目覚めて
真っ赤な身体をさすりだす


獣を飼っていると
傲慢に笑った人間が

獣に飼われたいと希った


流した涙に包まれて
温かな闇で眠ればいい

牙さえたてず
傷をつけず
丸呑みされて
痛くない事が痛かった


光を取り戻したければ
いつでもこの身を喰い破ればいい

許された事を受け入れず

眠っていたいなんて
本当は
叶わない事と知っていたけれど


モンスターが

いつかは
きっと大丈夫

そう言って
こんな私をまだ守るの


いつかこの身を喰い破り
光の世界へかえりなさいと

私は彼を殺すだろうか

守られている事に
こんなに涙を流しながら


やがて
ともに生きてはいられない時がくるの

知っている事が
こんなにも私を辛くさせる

涙で満ちた腹の中で
眠っている私を

優しい獣が待っている






自由詩 モンスター Copyright 藤原有絵 2007-11-26 01:38:28
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