対岸
木立 悟
つかんだ指のむこう側に
つかむものの無い手のひらがあり
こだまにこだまを描いている
思い出せない景色の絵葉書
置き去りにされた花束の色
河口の波と雲の色
紙の機械に点滅する音
中途半端な大きさを切り
少しとげとげしくなるかたち
片方で雪は溶け 片方で雪は降る
川岸に打ち寄せる音に浮き
重なりつづける双つのもの
水を伝い来る嗚咽を抄う
無と一の手のひら
やわらかな 手のひら
霧の輪があり
枝と音に触れ
剥がれ落ちながら回っている
鳥が花をついばんでいる
波と雲はさらに近づく
紙の街に雨が降る
こだま こだま
手のひらから来ては帰りゆく
やわらかなものへ帰りゆく