たすけてください
佐々木妖精
初めての記憶
それは母に手を引かれ
七つの子を歌ってもらった記憶
母が私の10倍生きていた記憶
木綿のように滑らかなその手に
生活という兆しがささくれ立っても
私をいつまでも包み、育んでくれたその手
強い記憶
それは蜂に刺され
象のように汗ばんだ大きな背中に揺られた記憶
父が私の6倍生きていた記憶
病院での処置に泣く身体を押さえ
チョコレート菓子を買ってくれた
私の背丈ほども幅のあった背中
絶対に追いつけないと思っていた
どこからきたのかすら分からないというのに
二人は気がついたらもう
道しるべのように
そこにいた
世界は父と母から生まれ
その血管は学校や職場へ枝分かれし
友達や恋人に至るまで脈打ち
進むべき道を
内部から血で示し続けた
時に反抗し
彼等を殺すことすら空想し
ナイフを撫で
言葉を突き刺した
やがて
絶対追いつけないはずの二人のうち一人を
私は身長で追い越し
また学歴というもので追い越し
ネクタイと格闘しながら
年齢差は今
2倍にまで縮まった
絶対に追いつけないし
その差が縮まることはないと思っていたのに
しかし今になって
追いつくということが
そして追い抜くということが
どういうことであるのかを
思う
私の年齢が
二人の年齢に追いつくということ
二人が絶対的な存在ではなかったと証明すること
それを想像すると
父が弔辞を読み
祖母の棺に頭をたれる姿
それは
今は
まだ
助けてください
って、誰に言うようにすればいいんですか
太陽が目に痛くて立ってられないんです
たすけてください
誰か