影法師
霜天

それでも
優しい歌を
優しく、歌えるようになりたくて
手に取った十年前の手紙を
そっと引き出しに戻した


単純なことを
回りくどくする
それについては、僕らは天才で
ついにここまで来てしまった


風車を掲げて
すり抜けていった子供の夢は
夏の畦道のような匂いのする中を
何処までも躓かず、転ばずに
飛び越えていける気がする

特権、なんだろう
いつまでも変わらない
けれど、何処にも届かないような


答えのないままそこに立ってしまうと
進むしかなくなるって事をいつの間にか覚えた
足の裏をぴたり合わせて、追いかけてくるのは
何処、ですか
人知れず休むことを身に付けて
悲しいときにからっぽの歌を歌う
輪郭はどんどん歪になっていく


ひとつも、遠くも
十年後も、明日も
どこも変わらずに円くなる世界があって
追い付かれそうで追い抜かれなくて
ほっとして、どこか磨り減って
優しい歌を歌えば優しくなれると
信じるその傍らに
付き添う人がいつか
泣いた、気がした


自由詩 影法師 Copyright 霜天 2007-11-19 01:15:45
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