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智哉
ある夜目覚めると猫が部屋に住み着いていた
何故か泣いていた
先に無いのは当然だが
後にも先にも猫が泣いたのはその時にしか見たことが無かった
猫は少しぽっちゃりしていて黒髪だった
猫は特にワガママを言うでもなく
名を欲しがるわけでもなかったので
俺は適当に『お前』と読んだ
猫は初日以降泣きもせずおとなしかった
ただ俺の横で寝転がりテレビを見ている俺を見ていた俺は決まって猫の肉球を触っていた
猫は嫌がる風もなくなされるがままだった
なぜ猫が住み着いたのかはわからない
確かにここ最近猫を飼いたいと思っていた
しかしこうも簡単に手に入るものか
猫もピンキリだろうに
間違いなく『お前』はアタリの猫だ
猫はある日機嫌が悪かった
非常に珍しい、いや、初めてのことだ
理由は多分、肉球を最近触っていないからだ
俺はコンビニで猫にチョコレートを買ってきてやった
猫は上目遣いで俺を見た
猫はまた俺の横でご機嫌に俺を見るだけだった
ひどく酒を飲まされたいつかの夜に
俺は一人の女を口説いた
予想に反して女は釣れた
予想に反して女は俺に惚れた
予想に反して毎日が幸せになったんだ
女の名は『音子』