密生
山内緋呂子

自分は一竿主義だが
夫がいなくなった
丸一日かけて森を歩く
竹がよくのびることで有名だ
カツカツコンクリートを歩く日は
男の尻
背から足
くぼんだ腰の上着が たゆんでいる場合にのみ
男が好きだ

森には誰もいないことを願う

きのこの丸みに
水が落ちて
茎へ行くまでのあいだ

赤い毒キノコを見た
「下ばかり向いているといいことがないよ」
一番早く嫁いだ妹
頭の後ろの毛をひっぱり
湖を見た
遠くふちが
一番
風鈴屋 干物屋 定食屋 
小石と山
があるから
それぞれが何色だか見えない

麦わら帽にトンボ
竹は上のほうに 葉っぱ
のびるまでは 遠くて
近づいたら 葉と葉

夫を忘れられるのは
姿を見ないで済むからだ

姿を見たら
また
したいと思う

人の形をして 
ここにこないでください

下っていくと
アスファルトで

脇の

わらびをつんで帰った



自由詩 密生 Copyright 山内緋呂子 2004-06-11 22:58:20
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