孤独、分かつ夜
ライチ

車のテールランプに照らされながら
独りバス通りを歩いていた

馴染みのバーには足が向かず
辿り着いたはアイツと来るバー

独りで来るのは初めてだ

そんな事に気付きながら
店の扉を開けると
馴染みのバーのマスターの姿
独りで飲んでるなんて珍しい

普段も時折見せる苦悩の表情を浮かべて

「自分がわからない」マスターはそう謂った
アタシも同じ孤独を抱えていた

酒の力でテンションを上げて店に出る
それは知っていた

自らの求める方向性
経営者としての苦悩
如何しようもない霧の中
この人も彷徨っている事を知った

 孤独を抱える者同士
 ふらふらと歩いた

次の店でアタシは飲み付けぬワインなど嗜み
極上のサラミを味見させてもらった
シェフのこだわりの強い店だった

「マスターのスタイル見つけようよ」アタシはそう謂った
それがどんなに難しい事かは解っている
だけど そう謂わずには居られなかった

 孤独を抱える者同士
 更に酔ってふらふらと歩いた

アタシが昔抱いていた夢の話をしながら
カフェバーと雑貨屋を併設した店
「うちの2階を使えば良い」なんて謂ってくれる
少し2人で夢見て微笑みながら馴染みのバーに戻る


アタシはバーテンと話しながら酒を飲む
店に戻ったマスターはテンションを上げ
忙しく店を出て戻っては女性客を捕まえてくる
あっという間に店は満席になる
それを眺めながら心の奥で応援する

夜も更けて帰り際に外まで送ってくれる
「俺は女騙して頑張るわ」マスターが謂った
その一言の意味を 彷徨いながらの決意も
ひっくるめてアタシは受け止める

「頑張って」笑顔でそう謂った後
 聞こえない声で微笑みながら呟いた


「アタシも騙され続けてやるよ」


 孤独を抱える者同士
 ふらふらと自身と人を騙しながら・・・





自由詩 孤独、分かつ夜 Copyright ライチ 2007-11-14 23:30:06
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