帰ろう
なつぎ
なあ
おまえがいないと
おれは飯も炊けなくて
酒の相手もいなくて
洗剤の量もまったくわからないし
だいたい
おれはバター派なのに
あの買ったばっかりのマーガリンどうするんだよ
急いで髭剃って出てきたんだ
慌ててちょっと切っちまって
なあ
あそこにほら
今赤い日が落ちるから
遠くのビルに突き刺さって
なあ ほら
今
世界 焼き尽くして
ほら
おまえが隣にいないと
さ
なあ
今だからいうけれど
二十のときおまえをはじめて見て
それがおれの初恋だって言う話
あれは嘘で
おれの初恋の人は
幼稚園のころ
おれに蓮華の蜜の吸い方を
こっそり教えてくれた人で
ごめんな
それから とりあえずおまえは今すぐ
少しの間でも置き去りにされて
ちょっと泣きそうになってたおれにあやまれ
そしたら
そしたら そのあとはずっと
おれかおまえのどっちかが死ぬまでは ずっと
おまえはただ
その満ち溢れたまなざしを
おれにくれればいい
あとはもう
なにもいらないから
ほら
帰ろう