森林浴
揚羽 欄符

僕は音のない森の中で
語りかけていた
それはかつての恋人だったり
疎遠になった親にだったり
亡くなった姉にだったり

これまで出会った人達に

とにかく僕は語り続けていた
その間当たり前のように
空は明るくなり
星が増えて減って
太陽は僕を溶かしていった

気付くと目に馴染んだ部屋で
過去に穴をあけて
今に空虚を作って
そこにいた
だけど僕は一滴の涙も流さずに
森に戻った
そこに居てはいけない気がして
僕は居てはいけない気がして
足を引きずって
歩いて
歩いて
語りかけて
森をさ迷って


僕は何をしているんだろう
僕は何処に向かっているんだろう

葉を擦る音だけが
やけに
響いた


自由詩 森林浴 Copyright 揚羽 欄符 2007-11-13 21:16:44
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