冷たいアクアリウムの床は濡れていないのに濡れた色をして
あたしたちの足音を消してゆく
透明な嘘の輪郭に包まれた
透明に眠る魚たちの呼吸は泡となり嘘の空へと昇る
あたしたちはぴ、ぴとその輪郭を辿りながら歩く魚たちを起こさないように
足をやわらかい床に埋もらせながらゆっくりと歩く
僕たちは発光すらできませんね
発光とひきかえに言葉をなくしましょう
彼は目と口をとじる
彼の輪郭はぼやけ始めて
彼は少しずつ静かに発光してゆく
発光は共鳴して
眠っている魚たちも発光する
遠い灯台みたいに
あたしの左側がほんのりあたたかい
あたしも目を閉じてみた
魚たちと
彼が
発光して呼吸する
水の音
が
す
る
。
初出『新宿金魚街図鑑』
http://blog.livedoor.jp/senco_gft/archives/232643.html