水族館の日
サトリイハ

冷たいアクアリウムの床は濡れていないのに濡れた色をして
あたしたちの足音を消してゆく
透明な嘘の輪郭に包まれた
透明に眠る魚たちの呼吸は泡となり嘘の空へと昇る
あたしたちはぴ、ぴとその輪郭を辿りながら歩く魚たちを起こさないように
足をやわらかい床に埋もらせながらゆっくりと歩く
僕たちは発光すらできませんね
発光とひきかえに言葉をなくしましょう
彼は目と口をとじる
彼の輪郭はぼやけ始めて
彼は少しずつ静かに発光してゆく
発光は共鳴して
眠っている魚たちも発光する
遠い灯台みたいに 
あたしの左側がほんのりあたたかい
あたしも目を閉じてみた
魚たちと
彼が
発光して呼吸する
水の音







初出『新宿金魚街図鑑』
http://blog.livedoor.jp/senco_gft/archives/232643.html


自由詩 水族館の日 Copyright サトリイハ 2007-11-11 02:54:39
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