卵の焼き加減に対して語ることがあるとするならばだ
ホロウ・シカエルボク




戻れない時間に眼をこらして
お前は明日への抜け道を探そうとしてる
新しい場所へ踏み出す勇気が無いんだろう
明日がいつかの焼き直しみたいになっちまうのは
紛れも無いお前自身のせいさ
したためる言葉は何のためだい
自己満足に浸りたいだけなら止めときな
それは
ゲームセンターでハイスコアを狙ってムキになるようなものだ
あとに残るものは空っぽの財布のみさ
新しい世界を引っ張ってくるんだ
新しい世界を引っ張ってきて
お座りをさせて言うことを聞かせるんだ
犬を躾けるのと大して変わりはしないのさ
車を持ってる友達にでも電話してみなよ
気分が良ければどこかへ連れてってくれるかもしれない
ひとりで生きるってことは誰かと上手くやれるってことさ
長いこと無駄に生きるとそういうことは判るようになる
ロック・シンガーのような態度なんて
十代の神話と大して違いは無いってもんさ
真実は熟成される
お前は眼をこらして
そういうものを見つめなければならない
したためる言葉は何のためだい?
時代錯誤なヒーローを気取りたいだけなら
図書館で涙でも流しているんだな
イズムに誰かの冠が被せられているうちは
お前自身の書棚は空虚に等しいぜ
何のためにそんなフィーリングがあるのかってことを
書きながらしゃにむに考えるべきだ
唇を噛みながら
本気の言葉を連ねても
それがありきたりなら何の意味も無い
本気の殺意を並べて見たところで
標的が血を吐いて倒れるなんてことは無いんだぜ
復讐の模倣に終始するんなら
わらで編んだ人形に釘でも打ち込んでみることだ
書きながらしゃにむに考えてみる事だ
嘘なんてついちゃ駄目だよ
嘘なんてついちゃ
だけど
それはありのままを記すという事じゃないんだ
海に潜るのに空気を吸い込むように
やらなくちゃならない工程というものが必ずあるわけさ
自分がどんな気分でそれを書いたかじゃない
文字を追うやつらにゃ
そんなことまるで関係が無いんだから
玉子焼きに砂糖を入れるのは好きか?
柔らかく焼くのは好きか?
葱を刻んで入れるのは好きか?
玉子焼きよりはオムライスにしたくなるか?
スクランブル・エッグじゃないと落ち着かないやつだって居るだろう
卵をひとつ手にとって
どれだけのことを考えているのか一度書き出してみるといい
その中にだって答えは隠れているんだ
見つけようと思えば
探そうと思えば
誰かのイズムを着ぐるみみたいに被る前に
何かちょっとしたものからイマジネーションを広げてみるべきだ
ジャンルなど飛び越えてしまって構わない
ジャンルのために書き始めるやつなんて居ないだろう
ジャンルなんか決して気にしなくていい
それは誰かのイズムを被る事と同じことだ
お前にはフレーズはあるかな
俺はいくつか持ってる
貸してあげてもいいけど
たぶん使い方が良く判らないと思うよ
それに俺のだってそれほどたいしたフレーズって訳でもない
フレーズを利用したフィーリング
そういうニュアンスを操るのが大事なのさ
長い長い糸を巻きつけたからって
誰よりも高く凧を上げることが出来るわけじゃない
意味なんか考えなくていいんだ
それはあとから勝手についてくるものさ
韻なんか気にすることは無いんだ
リズム感が良けりゃある程度形になるものさ
出来心地なんか気にしなくていいんだ
あらゆるスイーツはパティシェのためにあるわけじゃないだろ
手ならし程度のものが
美味しいと評判になることもある
もちろんその逆も
何でも出してみる事だよ
何でも出してみなくちゃ
自分のやってることがなんなのかも確認できなくなる
ひとりで生きるってことは
出来るだけ誰かと上手くやれるようになるってことなんだぜ





自由詩 卵の焼き加減に対して語ることがあるとするならばだ Copyright ホロウ・シカエルボク 2007-11-10 23:22:46
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