球体がこの世界に生まれる以前
人々は己が躰を傷つけながら宝飾品を纏い
雨は刃となって降り注いだ
ただ一つ存在を許された球は
人の眼窩に嵌め込まれた麗しき宝玉
眼球に記録されし世界の歴史
繰り返される
略奪　陵辱　蹂躙
吐き出される諦めにも似た嘆息
勝利により極めし栄華
踊る議会で煌びやか
飾る貴婦人
ほうっ、と吐き出す感嘆の溜め息

人々から零れ落ちる
息という心を少しずつ
拾い集めてこの世界は
まぁるく膨らんでいく
それは哀しい風船
やがて世界から溢れ出した感情は
人々の涙を模るようになった雨に込めて
優しく地上を濡らす

今この世界は
はちきれんばかりの哀しみに満たされて
雨は止むことをしらない
暗い灰色の溜め息は
静かにまるい穹を覆い始める

記録された最古の記憶
今日も聴こえる泣き声は
世界を震わす貴方の産声
まるい世界の始まりに
吹き込まれた最初の記憶
光に満ちた生命の息吹