夜の目
手乗川文鳥

孕まないことにすがるのはよせ、と
男は背中にいろいろな武器を背負う
産卵を邪魔しないで、と
女は腹にいろいろな楽器を抱える

部屋の中がけむくじゃらになって
お互いの顔も見えないのに
どうしてモップでモップを擦り付けるような行為を
幾夜も繰り返すのか

今はもうない雑貨屋で買った
アメリカンデッドストックの灰皿が
口をしけもくでいっぱいにしてもごもごと喋る
お前の飼い主は、馬鹿者だな、

男が頼まれもしないネクタイを締めて家を出る
女が期待もされない生ゴミをまとめて捨てに行く
擦り切れた、ワイシャツのボタンの糸を、付け替えたのも、高熱にうなされて、それでも飲みに行かれるのも、シーツに経血の跡、精液の跡、
いつか慣れると思い続けて


窓の外
自分を敗残兵だと言いながら携帯電話で話す老人の声に
二人は耳をすました


未詩・独白 夜の目 Copyright 手乗川文鳥 2007-11-10 06:35:54
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