水草
たけ いたけ

夕陽が沈み
水面を揺らぐ水草みたいに
淀んだ空
何かが起こる気がしている
モネの絵を思い出したところに
彼女の目の中
には
何かが渦巻いていた

素晴らしいスピードのミュージック
ライラックって無邪気な言葉を思い出す
壁にかかったトマトの絵
着物を着た女はオブジェになっていた
金の装飾を備えた部屋に
転がるバナナの皮と卵の殻
ドラクロワ
その影にネズミが逃げていく

冷たい風が吹く
そのとき一つの命が終わったんだ
私ってひどく残酷だわ
彼女が独り言を吐く
それに酷く懐かしさを覚えるんだ
電車の奥では薄汚い中年の男が虚空をみながらニヤついている
まるで揺らぐ水草みたいに
臭いんだ

クリームシチューとパスタを並べて
彼女は思っていた
私はあまり好きじゃないわ
俺はどうにか伝えたい気がしていた
伝えた気がした
ピンボケのカメラで撮影された食卓
彼女が昨日登った山の話をしている
池に魚が泳いでいて水面が光っていて
空気が涼しくて落ち葉が赤かったらしい


水につかったように凍える夜に車を走らせながら
ただ真っ暗な物体のことに執着していた
涼しくなっていく感覚
霊安室の卵巣
彼女は
冷徹にバランスゲームをしながら
彼のこと本当に好きだわと思っていた
今すぐに朝日を願った
夢のように

東の山の底からシャワーのように明るんで
右頬から耳の辺りにかけて照らす
肌のキメが細やかに露出して
光源になった頬
そこにキスをするんだ




自由詩 水草 Copyright たけ いたけ 2007-11-09 03:03:42
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