創書日和「指」 『いつまでも、鰐』 
士狼(銀)

とん、と
遠くの方で落下音
君は絵本を閉じてゆっくりと立ち
音を探して軽く首を傾げる
小指を栞代わりにする癖は治らないらしい

音の正体を知っているけれど
教えてはあげない
あのお喋りな雀たちは
君を外に連れ出してしまうから


君は再び至極ゆっくりと座り込む
まるで天秤が傾くのを怖がるかのように

横たわるこの首と
君の左手首にはお揃いの空がいる
名前は記号にすぎないけれど
君の名前は特別に
希望のようにしっかりと刻まれる
この、止まりかけた心臓に


あ、と零れ落ちた溜息のような声さえも
壊れたこの耳は
それだけを求めて一生懸命になって拾う


小指、食べられちゃったみたい


鰐の大きな牙に
君が憧れているのを知っている
嫌なものはなんでも噛み砕きたいらしい
脆くなったこの牙はもう
優しい君の指に
甘えることすらできないけれど


もう、指きりやくそくできないね


絵本に挟まった指に温かい血が通っても
まだ
君は痛々しく、笑う

涙の跡を、ひた隠しにして。


そんな哀しみは、見たくないのに

濡れた頬を舐めるより
小鳥のようなキスを送ろう



君に永遠を嫌わせたのは、
間違いなく、僕だ。


自由詩 創書日和「指」 『いつまでも、鰐』  Copyright 士狼(銀) 2007-11-08 23:30:36
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