Don't Tear Me Up
ホロウ・シカエルボク
君は凄く不器用で
僕の手を借りなきゃ左手の爪も上手く切れないような娘だった
だけど不思議なくらいこころに届く微笑みを所有していて
触れると指先からラベンダーの香りが流れ込むような娘だった
僕は自分では結構上手くやっていたつもりだったけれど
周りから見ると幾つもヘマをしでかしていた
約束についてこない現実なんかその際たるもので
投げ出したくなる気持ちを抑えては笑い返したものさ
あれからどれだけの日々がゴミ箱に落ちたんだろう
カレンダーのしるしはいつからか忘れられたまま
ついつい飲みすぎてしまう珈琲や窓越しの光の向こうに
何度君の姿を探せばこの先にいけるのだろう?
君がほんの少し
物事をこなすのが下手なことは知っていたけれど
運命にあらがうことも僕よりままならなくて
痴呆のように晴れた冬の日に突然時を止めてしまった
あまりに突然すぎて
整理出来ないままの存在がそこここに散らばっている
僕はやっと上手く続けられそうな仕事を見つけたところで
有頂天になって日々を過ごしていた
君が出迎えてくれる事が毎日楽しみで
取るに足らないちっぽけなことの中から奇跡を摘み上げる事が出来た
だけどそんなことはもうこの部屋の中では起こることが無い
欲しいといったら手に入れることは出来るのだと
神だと勘違いしているロックシンガーが歌っている
恍惚とした表情に腹を立てて
僕はテレビのスイッチをオフにする
暗転した画面を見た瞬間に
いつかの喪失を思い出して悲鳴を上げるんだ
少しの無理でどんな事でも叶えられる気がし始めていた
信頼を手に入れた僕は確かに満たされていて
遅れがちになった誓いのために躍起になっていた
どんなに疲れて帰っても大丈夫だったんだ
君と眠ればマイナスは朝にはリセットされていた
ここに来て僕をリセットしてくれ
君が居なくなった人生の収拾がつかないんだ
墓標の前で聖地に祈るように頭を垂れて
動く事が出来ないままで世界が逆さまに枯れるのを見た
もう一度も、一瞬も、新しい記憶に出会えない
コントラストを調節しながら古いビデオテープを見るみたいに
見たことのある景色ばかりが不安定に再生される
観たくない映画を観ているみたいで
だけど眼を離せない自分にイラついている
もう傷を受けるのは嫌なのに
記憶の刃の群れに自分から飛び込んでいってしまう
傷口から逃げ出した血液が君を探して
カーペットの上をあてもなく彷徨う夢を見る
僕はひとりじゃ歩けないくらい弱い男で
そんなことは無いんだと否定するためだけにこれまでを生きてきた
そんなことを口にしなくてもいいんだと何度も思ったけれど
ひとりというものをいままでよりもはっきりと知ってしまった今は
こうして懐かしい思い出に刻まれる事しか出来ないんだ
ここに来て僕をリセットしてくれ
君が居なくなった人生の収拾がつかないんだ