小原あき

図書館の本は
公務員みたいに黙って
読まれる、という役目を
少し怠そうに待っている

田舎の図書館は
どうも品揃えが悪くて
本にも覇気が無い

手に取ってみても
抵抗はしないけれど
なんの感情も見られないので
すぐに棚に戻してしまいたくなる

田舎の図書館は
ただ、静かな空間があって
時が止まっているみたいだ
時計の秒針が鳴る音で
進んでいたのを思い出す

白い空が似合うと思う
少し煙った
白い空が似合うと思う




書店の本は
蛍光灯の躊躇わない光に
顔色を良くさせて
営業用の笑顔を振りまいている

大型書店は
静かな雰囲気を装っているけれど
市場みたいに騒がしい

無抵抗にお腹を見せて
店員と変わらぬ笑顔で
いらっしゃいませ、と言う

手に取ってみると
一層、瞳を輝かせて
立ち読みの雑誌は
くたびれた体をしながらも
懸命に笑顔を振りまいている

大型書店は
身を削る音がする
それは紙の擦れる音に似ていて
少しずつ彼らの寿命が縮んでいるのがわかる

雨が降れば良い
しっとりと降る
雨が降れば良い



古本は
疲れた体で立っている
いくらか人間臭いのは
手垢のせいか
それとも一度は人間のものとされたせいか

リサイクルショップは
芳香剤の臭いと
本の人間臭さが入り交じって
異様な臭いがする

少しふらつきながらも
生きようとする姿勢は
少しだけ淋しさを含んでいる

手に取ってみると
じっとりして汗をかいているようだ
だけど、体は縮こまっていて
寒くて仕方がないようだ

リサイクルショップは
寒い朝の駅の待合室みたいで
家を無くした人たちが
寒さを凌いでいるのに似ている

晴れて欲しい
透き通る空気みたいに
晴れて欲しい









幼い頃に行った
商店街の
小さな書店に並べらた本は
みんな
あんなに生きて

印刷の匂いが
午後の心地よい風になびいていて
いつも
穏やかな
日溜まりだった











自由詩Copyright 小原あき 2007-11-07 17:05:07
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