せんちめんたる・ふーる
凛々椿

いつか彼が
窓枠にもたれかかって
初秋の移ろいを見つめていた
そして手を振った
優しい時間があったこと
思い出していた

雨が降り続いていた
ぱらぱら 
窓の向こうで泣いていた
昨日はうまく寝つけなくて
ぼんやりしていた
そうして ブラウン管を眺めていた

雨が降り続いていた
少しだけ眠った
静かに闇の中に黄緑色の光が点滅していた
いつもなら放っておくのに
寝ぼけながら光を受け取った
00時06分
言葉が並んでいた
悲しい言葉が並んでいた

22時29分という時間を忘れることはないだろう

雨が降り続いていた
眠れなかった
雨が泣くのをずっと聴いていた
ずっと遠くの東京の雨が泣くのを
いつまでも聴いていた

やがて空が明るくなって
雨も泣き止んで
いつもの一日を投げ出したい気持ちばかりで
庭に出ると
枯れ葉がはらはらと降っていた
あの笑顔の人がきっと好きだった季節だ
彼が二度と見ることの出来ない季節だ
時計を見た
07時36分になっていた

「ワルター?あいつは、センチメンタル・フールだ。」
なぜかこの言葉が降り注いで消えなかった
まるで昨日の雨のように
ずっと降り注いで止むことはなかった
「ワルター?あいつは、センチメンタル・フールだ。」
「ワルター?あいつは、センチメンタル・フールだ。」
空の先を見つめる彼の言葉は
まだ静かに呼吸している






自由詩 せんちめんたる・ふーる Copyright 凛々椿 2007-11-07 10:40:59
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