距離をさようならにかえない。
哀詩
(もしこの声がきこえたのならば、
少し耳をかたむけてください
夕焼が目ににじみはじめたから
こちらは見ないで、そのままで。)
あなたはいつでもあたたかかった。
笑っているときは勿論、ないているときも何故だか。
あなたはいつでもあたたかくて、
あたしのつめたい指先を抱いて、ほほえみました。
余談ですが、最近はいっとう寒くなりはじめ、
吐息が濁り、生命のおとはちいさくなりはじめたのに
あなたには聞こえないのでしょうか
見えませんか、感じませんか
この指先はあたたまることを知らず、ただただかじかんで、
きっと明日ごろには ぽろり、 と
表面のかたいみずたまりに その影を落とすことでしょう。
そろそろあなたの顔の崩壊がはじまり、
記憶の中のあなたは ただのしあわせのかたまりとなり
具体的要素は欠いて、なみだも枯れるころあいでしょう。
あなたがほめてくれたあたしの髪は
つい先日切り落とされゴミ箱へとその命を投げうち
あたしはただただ動かなくなった思い出を眺めては
涙腺の静止に心も動かされずにいました。
そこにあなたお決まりの文句、
(前のもかわいかったけど、今はもっとかわいいなぁ)
それがあったなら、きっとあたしの口角だって今はぎこちなくない
星にはあなたの笑顔が
朝日にはあなたの寝顔が
夕日にはあなたの手のぬくもりが
暗闇にはあなたが投じるきすの感触が
思い出されていたのに今のこの様は何なのでしょうか
(さようなら、はまだしていなかったのに)
あなたの全要素の分解がはじまり、
あなたのぬくもりは失われ、
あなたの言葉は外国語となり
あなたの記憶はもう
もう
ただ、