距離をさようならにかえない。
哀詩

 

(もしこの声がきこえたのならば、
 少し耳をかたむけてください
  夕焼が目ににじみはじめたから
   こちらは見ないで、そのままで。)


あなたはいつでもあたたかかった。
笑っているときは勿論、ないているときも何故だか。
あなたはいつでもあたたかくて、
あたしのつめたい指先を抱いて、ほほえみました。

余談ですが、最近はいっとう寒くなりはじめ、
吐息が濁り、生命のおとはちいさくなりはじめたのに
あなたには聞こえないのでしょうか
見えませんか、感じませんか
この指先はあたたまることを知らず、ただただかじかんで、
きっと明日ごろには ぽろり、 と
表面のかたいみずたまりに その影を落とすことでしょう。


そろそろあなたの顔の崩壊がはじまり、
記憶の中のあなたは ただのしあわせのかたまりとなり
具体的要素は欠いて、なみだも枯れるころあいでしょう。

あなたがほめてくれたあたしの髪は
つい先日切り落とされゴミ箱へとその命を投げうち
あたしはただただ動かなくなった思い出を眺めては
涙腺の静止に心も動かされずにいました。

そこにあなたお決まりの文句、
(前のもかわいかったけど、今はもっとかわいいなぁ)
それがあったなら、きっとあたしの口角だって今はぎこちなくない


星にはあなたの笑顔が
朝日にはあなたの寝顔が
夕日にはあなたの手のぬくもりが
暗闇にはあなたが投じるきすの感触が

思い出されていたのに今のこの様は何なのでしょうか

(さようなら、はまだしていなかったのに)

あなたの全要素の分解がはじまり、
あなたのぬくもりは失われ、
あなたの言葉は外国語となり
あなたの記憶はもう


もう




ただ、



 


自由詩 距離をさようならにかえない。 Copyright 哀詩 2007-11-03 06:26:07
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