老いるだけが死じゃない(詩にそれは言えない)
ホロウ・シカエルボク




おまえの首の引っ掻き傷を吟味してこのあとの綴りを決めよう、食い尽くすには惜しいほどの欲望だ、互いの首に絡み付いて―そのあと老いぼれるかどうか飽きるまで確かめてみようじゃないか
夜はベッドサイド、ユーカリの香りと間接照明の灯り…それですべてを忘れられるならしめたもんだぜ、俺を安らかに眠らせる子守唄を知ってるか?『そんなものは無い』って囁くんだ、小さな声で、陳腐な予言のように…B級映画みたいな安っぽさでさ
窓には夢魔の行列、ロックを確かめたか?少しでも透間があればやつらは入ってきてしまうぞ…やつらのあの人数じゃ夢どころか現実まで喰われてしまう―見たことあるだろう
虫食いテストの虫食いのところに入り込んじまったような人間達の群れを?出来るなら分厚いカーテンを引いておくんだな、セオリーとしてなによりもまず完成されるべきなのは拒否の意思さ、この夜に何かを賭けるつもりなんか毛頭無いけれど…平穏無事に明日の朝まで過ごしたいなんて真顔で言ったら笑ってくれるかい?俺たちはとうに奥底まで傷物じゃないか…救いなんて求めるから人間は間違えるんだ
ボリュームを強くしてくれ…もっと、ボリュームを…軋むぐらいに―カッティングが上手く聞き取れないんじゃビートの確立しようが無い、リズムがどれほどのものを生み出すのか…知らないほど初心でも無いだろう?ボリュームを強くしてくれ…大きくじゃない、強く、強くだ
今朝から急に寒くなって俺は怯えている、守るべき手段が突然ごっそりと減ったみたいな感じさ
おまえが見てるものは俺が見てるものと同じではない、それについてどうこう言うつもりは毛頭無いけれど、おまえの欲望の形がもう少し俺に似ていればナとは時々思うよ―噛み合わないから愛しいってもんだよな、それは寂しさじゃないんだ
それは寂しさじゃないんだ、判るだろう…死体になれない生き物だったらロックンロールなんて必要無いんだ、『あと五年しかない』って言ってみな、嘘でいい、嘘でいいんだ…唇を少しゆがめて本能的な確信のように『あと五年しかない』って―何かが見えた気がするだろう、何かが判った気がするだろう…こころの中に牙を立てている得体の知れないものの影が数秒前よりくっきり見えたような、そんな気分がやってきただろう?人間の欲しいものなんてそんなに変わらないんだ、本当は―それが
それが理性の側から来るのか、本能の側から来るのか、それだけの違いさ、所詮は小狭い肉の内側で起こるささやかな衝突事故さ…こいよ、さあおいで、俺たちにはあと五年しか無い
始まりと終わりについてもっと具体的に考えてみたことがあるだろう―ビクビクしがちな思春期の少女のようにさ、始まりと終わりについて詩を書くことで精一杯になっちゃうような可愛さって今でもあるだろう?俺たちの本質は怯えだ、俺たちは皆怯えのオブラードに包まれて―だからこそ、娯楽の数ばかりが増えてゆく…刹那的になればなるほどいとおしくなってくる、ラブ、セックス、ドラッグ、ダンス、トランス、ロックビート…長い爪で掻き毟り続けるみたいなロックビート!肌が破れたところから溢れてくる血液で白い爪が赤く赤く染まっていくんだ、どんなネイルアートだってメじゃない、ネイルアーティストには血液のスコアを描くことなんて出来やしない―スポット・ライトの眩しさと紫煙に塗れて…ああ、まるでトリップしたレインボウ、まるでトリップしたレインボウみたいな曖昧な色合いだ、ロスト・イン・ハリウッド、ボネットは誰も置いていったりなんかしない
上昇気流って奴を信じさせておくれ!
そこにいるのかい、おまえ、そこにいるのか…首の傷口はどこへ行った、長く引っ掻いたような首の傷口はいったいどこへ行った…?輪郭を上手くつかむ事が出来ない、そもそもおまえは本当に俺が思っているようなおまえなのだろうか―ああ、ギターソロ、ギターソロだ、本物の狂気、常世の和音だ…聞こえるかい、聞いているのかい、俺たちに残り時間なんかあるのかい、五年って一体誰が決めたんだ…
俺たちは明日にもくたばってしまうかもしれない、ロットン、あんたは正しいよ、だけどそれだけしかない
そうさ
いつだって




いつだってな




自由詩 老いるだけが死じゃない(詩にそれは言えない) Copyright ホロウ・シカエルボク 2007-11-02 21:11:32
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