月下美人への恋
榊 慧

オレは次の世は蝶に生まれたいな。
そうしたら、ずっとキミに唇に止まって、キミの蜜だけ吸って生きていくんだ。


その時は、できれば何の障害もなくキミと結ばれたい。
神様はきっと、そこまで意地悪じゃないよね?



夕日が落ちる頃、オレは必ず浜辺へと向う。

今日の夕日も、やっぱりキレイ。

でもあの日キミと見た夕日以上に美しい夕焼けには、今も一度も出会えないでいる。
(月下美人だって、いくらなんでも太陽の最後の時間くらい見たって良いでしょう?)

ねぇほら。

オレは心から愛してる。
キミも愛していてくれたかな。

時々、
大気に乗ってキミがこの町に降りてきてくれるんじゃないかな、って少し期待している。



オレの意識を全て掻っ攫ったその香りは、庭に植えられているどの花とも違っている。

世界で一番、愛しているその花は、この町にはたった一株しか存在しない。
そしてその一株はここにある。

咲いていないはずの、月下美人。


時期を過ぎ、葉だけになった月下美人の鉢植えは、今もここにある。
大切に育てているよ。来年、花が咲いたらまたキミを想って少しだけ泣こう。



キミは今も笑ってる?


愛しい人へ、今日も海を眺めて問い掛ける。


潮騒の他に、応えはないけれど。


それでも、何度でも 何度でも キミの名を、呼びかける。


花に恋した哀れな男の、儚い愛の物語。

この物語が海を渡って、何かの縁でキミの元に届いた時、
キミは男のことを不幸だと思うかな。

事実はきっと誰にも分からないんだろう。

もしキミの傍に愛する人がいるのなら、きっとこれは恋に破れた男の物語なんだろうね。

それでも男は幸せだったんだ、なんて言ってもきっと意味がないと思うんだ。


そうだろう?

キミの物語がキミのものでしかないように、オレの物語はオレの物語でしかない。

きっと今この瞬間も、世界のどこかで誰かの物語が綴られているに違いないと、
そう思うとこの世界はなんてすばらしいんだろう。

真っ白なページに書き込まれるそれぞれの物語は、全てかけがえのないものだと思うから。

自分で読み返した時に幸せだと感じられるなら、
それが最高のハッピーエンドなんじゃないかな、ってオレは思うんだよ。

例え愛した人とのエンディングが、自分のものと異なっていてもね。


後悔も喜びも、全てが輝いていたと思える日が、いつか必ず巡ってくるはずだから。



魔法の月下美人にまつわる、奇跡の物語。
(キミは魔法を使えたんだよ。きっと)


潮風に花の香りを乗せて。




自由詩 月下美人への恋 Copyright 榊 慧 2007-11-01 16:27:31
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