まさかトイレで寝入ってしまうとは
北大路京介





まさかトイレで寝入ってしまうとは

今何時だろうか?

けっこう長い時間眠ってしまった気がするけれど

鍵はかかっていないはず どうしてドアが開かない

ひとり暮らしなんだ 誰も外から押さえつけてやしないはず
ベランダの鍵も 玄関の鍵も閉めてあったはず

いま俺は もしかしたら トイレに閉じこめられている?

電球の明かりが点いてることを有り難がり始めてる

なにかが きっと 引っかかっているのだろう
強引に押したら開いてくれるだろう


まさかトイレで寝入ってしまうとは

ちょっと喉が渇いてきたけど ここで飲むのは躊躇われる
水道水だから安全であるとは思うけど

どうしてドアが開かない? なぜに閉じこめられている?


これは夢をみているんだ たぶん
トイレで眠ってしまうわけがない いかに疲れてたとしても

そんな風に思いたくもなるけど 残念ながら現実だ


なにかの罰でもあたってるのだろうか?
あれこれと反省することが思い浮かぶ

でも そのすべてを帳消しにするぐらいの 善き行いもしてるはず

携帯電話も いま手元にないし 運が悪いだけか

  トイレから うまく抜け出す方法を思いつきはしないか

  俺の前世が一休さんだとしたら きっと名案が閃くはず

  しかし 俺の前世はミジンコっぽい



まさかトイレで寝入ってしまうとは

もし仮に寝入ってなかったとしても ドアが開いたとはかぎらない

チカラで開かないのなら 呪文かなにかの問題か

何を叫べば 開いてくれる?
何を差し出せば 開いてくれる?


  どこかに トイレのどこかに 小型カメラが隠されていて
  誰かが 俺を見て笑っているのかもしれない

  ドッキリか ドッキリだ
  誰かにしてやられてるんだ きっと
  悪趣味だ
  そんな道楽をする余裕があるのなら もっと他に考えることがあるだろう


  探したけれどカメラなかった


どうしてドアが開かない?
なぜに閉じこめられている?

どうしてドアが開かない?
なぜに閉じこめられている?

  これは もしや「考えるのをやめる」を選択する状況まできてるのか?

こんなことになるのなら
もっと幸子ちゃんにアプローチしとくんだった
いや 淳子さんに もう一度アタックしとくんだった
奈々に嫌われても しつこく粘れば良かった
男子校なんていくんじゃなかった
サッカーとかしとけばよかった

後悔することが多すぎる

どうしてドアが開かない?
なぜに閉じこめられている?


トイレで寝入ってしまう前
トイレに入る前
俺は何をしていたっけ?

何をしていた?

そもそも ここ うちのトイレだっけ?

トイレなのか? ここ?


  ここから抜け出したら まずコーヒーを飲もう

  そして 美味しいパスタを食べにいこう
  トマトとニンニクのパスタ

  そして 彼女をさがそう 恋人をさがそう
  おもしろい女を とびっきり おもしろい女を

  彼女ができたら実家へ連れて帰ろう
  地元の友達に自慢したりして

また もう一眠りしたら なにか変わってるかもしれない
なにか変わってくれていて欲しい

なんて無力なんだ

無力


まさかまたトイレで寝入ってしまうことになるとは






未詩・独白 まさかトイレで寝入ってしまうとは Copyright 北大路京介 2007-10-30 16:18:11
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