柿を食べる
楢山孝介
「渋いんだろ」
「全然渋くない」
「見た目まだ青いもん」
「人を見た目で判断しない」
「柿だし」
「渋くないから」
「渋くて渋くてたまりませんていう顔してるし」
「向かいの奥さんも渋くないって」
「奥さん食べてないだろ。あ、こんちは」
「柿、嫌いなんだ」
「好きだけど、渋いのは食べないから」
「あたしが嫌いなんだ」
「いきなり何言い出すんだ。好きだよ。大好き」
「いや、あたし、柿嫌いなんだ」
「じゃあなんで食べてんの」
「うちの庭に生えてるんだから食べなきゃいけないと思って」
「無理しなくていいよ。人にあげたらいいし」
「でもそれは何かくやしいし」
「柿の木は登ると折れやすいっていうから、子供出来たら伐ろうか」
「それってもしかしてプロポーズ?」
「おれたちもう結婚してるから!」
「柿食べなよ」
「渋い顔してる人が勧める青い柿なんて絶対食べない」
「あ、見て、ヤキソバン」
「よそ見した隙に食べさせたいのならせめてUFOって言え!」
「渋いってのも案外美味しいかもよ? シヴィーツ」
「スイーツみたいに言わない。ていうか渋いって言った!」
「渋谷六本木、そう思春期も六本木、これに六本木」
「うろ覚えラップでごまかしても無理だから」
「昔から渋いの好きだったじゃん。ターンエーガンダムとか」
「いやいや、話は好きだけどさすがにヒゲガンダムはどうかと思うから」
「剣客渋井柿の介とか」
「ボンボン坂高校演劇部の作者の描いてたニヒルな侍の出てくる漫画なんて誰が覚えてるんだよ!」
「もういっそ、食べちゃえば?」
「理由どうでもよくなったかあ」
「宇宙でかい」
「柿は?」
「この渋柿食べてくれたらさあ……」
「完全に認めちゃってるよね。何?」
「お嫁さんになってあげるっ」
「結婚してるから!」