雨・九月の京都・鏡の駅
草野春心



  雨に滲んだ九月の京都が
  空から町へ静かにふりそそぎ
  初めての懐かしさが
  消えそうな時を満たしてゆく
  この匂いは何処でも同じ
  この思いは今ここにだけ
  雨に滲んだ九月の京都



  市バスの景色にすべてがあり
  竜安寺の苔にすべてがあり
  駅前のスター・バックスにすべてがある
  それでいて閉塞感はなく
  行き交う物事の優しい哲学が
  自由の象徴みたいに笑い声をたてる



  雨上がりの飴色を
  二度とやって来ないこの夕焼けを
  デジタルカメラで写さないで
  思い出に閉じ込めたりしないで
  僕はいつもここにいるよ
  夜に濡れた京都タワー
  ガラスの駅が映す 美しい光の川
  鏡の中じゃない
  僕の瞳の奥じゃない
  君はいつもここにいるよ



自由詩 雨・九月の京都・鏡の駅 Copyright 草野春心 2007-10-27 01:01:53
notebook Home