そのひとは泣いていた
風音

救急病院

年配の女性

無理な笑顔で処置室を出てきたそのひとと

隣り合ったレストランで
偶然向かいの席でまた会った

女性はコーヒーを頼んだあと
ハンカチを取り出して

目が潤んだ
鼻をすすって

わたしは見るもの辛くて
そこにいるのが悪い気がして

パウダー・ルームに入った
しばらく水に手を浸していた

けれど後からその人が来て

個室の中で泣いていた
声を出して泣いていた

心も体も泣いていた

わたしが席に戻って
涙を堪えながら
紅茶を飲み終わるまで

そのひとは席に戻らなかった

あの女性が
今笑顔でいることを願う

偽善のようだけれど
少しでも笑顔であるように

願う











自由詩 そのひとは泣いていた Copyright 風音 2007-10-26 07:50:31
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