朝、富士そば、スマトラカレー
平
朝。
残酷な日光が降り注ぐ。
布団と夢の残り香をすべて霧消と帰する残酷な光が降り注ぐ。
この部屋はとても日当たりが良い。
つまりそれだけ、容赦ない残酷さが降り注ぐ部屋だ。
出先の仕事先。8:50am。
コロッケ蕎麦、ほうれんそうのお浸し。
そば?うどん!?と、朝の声量にしては大きすぎる店員さんの声。
可聴域ぎりぎりのデシベル値で、そば、と返す。
どんぶりに盛られたコロッケ蕎麦とほうれん草のお浸しを前に、
ため息をひとつ、つばをひとつ落としては飲み込む。
立ち喰いそば屋さんの塩分が効き過ぎた出汁の中にコロッケを沈め、
箸で突き崩し、もろもろにくだけたじゃがいもとパン粉の流動物に麺を絡めてすすりあげる。
とてもおいしい。
とてもかなしい。
昼、仕事を終え、
神保町のカレー屋で昼食を取る。
焦げた褐色のルーを大盛りにしたチキンカレー。
肉の繊維は既に糸状にほぐれ、
粒の立った米と絡めてほおばれば、
間違いのない至福を与えてくれる。
とてもおいしい。
とてもかなしい。
残酷な朝の光。
その残影に促されて、多分人は一日を生き、飯を食う。
その孤食がおいしい分だけ、
かなしみはほぐれた肉のように、とろけたじゃがいものように、
日々の更新を告げる毎朝に浸透していくのだ。