Don't Call Me Up
ホロウ・シカエルボク
シューズボックスの中で朽ち果てていく過去は
いくら叫んでももう遠く届かない場所
あのころおまえが一番好きだった
動脈を流れる血のような紅いヒール
汚れた爪先にくちづけをして
何度も許しを願ったんだ
窓の外は孤独を彩るための豪雨で
子供のように怯える俺は
今にもおまえがドアを開けてくれないかと
涙に濡れながらそう考えていた
本当の過ちは誰にも詫びる事が出来ない
フレッドアステアのようにおどけて
ロンドンのホテルの内庭の砂利道を鳴らしたとき
おまえのその靴がくちばしの様に未来を狙っていた
俺は浮かれすぎて
コンバースのかかとで犬の糞を踏んじまったのさ
電話番号をコールする
もう居なくなってしまったことは知っているのに
心は錯乱に近くなっていて
万に一つの望みもない可能性に賭けようとしてしまう
俺は弱虫なんだ
おまえは本当はそのことを見抜いていたんだろう
細い蔓で幾重にも編み込まれて出来た
小さな椅子に腰掛けて呼び出し不可のアナウンスを夜明けまで聞いていた
何も無い部屋に閉じ込められそうな気がするんだ
何も無い部屋に閉じ込められそうな気がするんだよ
時間を超越してドアを開けておくれ
なにもかも許すと
なにもかも許すとこの俺を抱きしめてほしい
ラジオのチューナーをルーレットみたいに合わせて
派手にカバーされたブルースを流した
それは最高にアップなテイクだったけれど
俺のブルーを塗りつぶすには少しも足りなかった
いまさら何を求めればいいというんだ
月の輝く夜になにもかも失ったのに
すっかり真っ当な昼が訪れるころ
ジャンキーのように衰えてベッドにもぐりこむ
誰かの采配で
悦楽に溺れるおまえの夢を見て悲鳴を上げるんだ
口元から血が流れる
どうやら噛みしめてしまったらしい
ベッドサイドの時計を壁に投げつけて壊した
どうせ今となっては必要としないものだ
気持ちよくしてくれる嘘つきを求めて
月の出た夜は街中を彷徨うのさ
あの夜を思い出させる窓明かりが怖いから
あの夜を思い出させる月明かりが怖いから
誰でもいいから腕に絡みついてきたやつに
望みどおりの金を渡してやるぜ
だけど
僅かながらのぬくもりに触れると涙が零れそうになる
何も無い部屋に閉じ込められそうな気がするんだ
何も無い部屋に閉じ込められそうな気がするんだよ
時間を超越してドアを開けておくれ
なにもかも許すと
なにもかも許すとこの俺を抱きしめてほしい
通りにはこれほども欲望が溢れているのに
俺の心臓を貫いてくれるものはどこにも落ちてない
彼女、もしよかったらこの俺に無償で愛を与えてくれないか
ひとりになると思い出すんだ
ひとりになると怖くてしかたがないんだよ
どうしてもなんて無理は言わない
痩せた哀れな男に少しは慈悲を与えてもいいと思うなら
この俺に無償で愛を与えてくれないか
あんたがもしも気前のいい女なら
あんたがもしも馬鹿みたいに優しい女なら
無下にしたくないダーリンがいるのなら
そいつの名前で呼んでくれたってちっとも構わないぜ
数時間ぐらいなら俺はそいつにだってなれるかもしれない
俺で無くなれるならどんな努力だってするさ
「自分を大切にするの」なんて言わないでくれ
それをしようとしてこっぴどくしくじってしまったんだ
通りにはこれほども欲望が溢れているのに
俺の心臓を貫いてくれるものはどこにも落ちてない
いまさら何を求めればいいというんだ
月の輝く夜になにもかも失ったのに
細い蔓で幾重にも編み込まれて出来た
小さな椅子に腰掛けて呼び出し不可のアナウンスを夜明けまで聞いていた
コードを引っこ抜くんだ
そうしないときっとどこにも出て行くことは出来ない
シューズボックスの中で朽ち果てていく過去
終ったはずの雨がまた静かに降り始める