背高泡立草
木屋 亞万

ある空き地の前を通ると
泣き叫んでしまいそうになる
通い慣れて遊び倒した家を思い出して

我が家より我が家だった

主を失った家は売られ
しばらくして潰された
ショベルカーがガリばりと
屋根を噛んでる姿が忘れられない

土ぼこりを防ぐ放水ホースが
薄汚れた虹を描いていた
瓦礫となった家をトラックに積み
何も無かったかのような空き地になった

大きな声を出して泣いた風をした
涙は必要以上に出てこなかった
驚いた表情の地肌だけが不自然に
染みを作って濡れていた

そのうち草が生え放題になり
犬や猫が糞尿を垂れ流していく
どこにでもあるただの空き地になった
人に見捨てられた土地になった

春には昔から蒲公英が咲いて
夏には夕暮れ蝙蝠が飛び回り
秋には虫の演奏会場になって
冬には引っ付き虫を提供した

殺風景だった地面にはくすんだ
黄色い草が生い茂っている
背高泡立草というらしいそれらが
風に揺れるたび視界は下から泡立っていく


自由詩 背高泡立草 Copyright 木屋 亞万 2007-10-23 23:51:51
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