「 卵 」
服部 剛
先日詩人の夫婦に会い
日々寝不足の夫の目に
隈ができていたので
妻に「大丈夫?」とメールした
妻の名前で受信した
返事の中味の文字からは
「大丈夫だよ」と
夫の顔文字がほほえんだ
妻という枠に囲まれた
夫の文字をみつめたぼくは
(夫婦はふたりでひとりだなぁ)
ほのぼのとお茶をすする
(パソコン画面の余白には)
(きみをしろみでつつまれた)
(ひとつの卵が浮かんでみえた)
階段の下から
「あなた今夜は月がきれいよ」
初老の母が親父を呼ぶ声がする
ふと本棚に目をやると
朱色と灰のふたりの詩集が
寄り添うようにたっていた