きっと鈍痛のほうがより涙を流せる
ホロウ・シカエルボク
おもてむき静かな
地下の濁流のような衝動
ガラス窓に映った顔だけがほくそ笑む
いつか
ナイフで蜂を殺したときの壁のいくつかの穴に
あのこを切り刻んで少しずつ詰め込む幻覚を見た
ひとりで熟成させるには向かない感情だったんだ
驚くほどしんとした夜半
身体とうらはらに心情は眼をひん剥いて
今夜ごたまぜのカオスの死骸の
頂でどんなダンスを踊るのか思案していた
出来ればそれとなく
傷みと感じてくれるダンスがいい
出来ればそれとなく
哀しみと感じてくれるダンスがいい
言葉を音声化するための機能が欠損しているから
出来ればそれとなく受け止めてくれる感覚がありがたい
ディスプレイの前で綴りを思案してたら
いつしか祈るみたいに手を合わせていた
神には
俺の欲望の種類は上手く分類出来ないだろう
と言って悪魔には
それがどういうものか見ることも出来ないだろう
かと言って近しい誰かが
それをそういうものだと理解出来るだろうか?
そもそもが俺自身
それがどういった種類のものなのかろくに判断がつかないのだ
窓ガラスに映った顔だけがいまだほくそ笑む
聖書の言葉で誰かを呪おうとしているようなそんな気分
伸びをしたら『求めるな』と言わんばかりに心臓の辺りが傷んだ
言え、言え、言え、言えと
同じような違うような切迫感ばかりを突きつけてくる白い画面
ごたまぜのカオスの死骸が腐敗して悪臭を発したりしないように
周期的にいくつかの血をセオリー抜きで投与しなくてはならない
それは処置と言うよりはもはや儀式だ
それは処置と言うよりはもはや儀式に違いないさ
時々
口腔に溜め込んだ涎をうまく飲み込めなくて
鼻腔と交わる辺りに不愉快な違和感が始まる
ステーキナイフでスパッとした違和感を作ろうと目論むときの
指先に感じるギザギザの振動と同じ違和感さ
それははなからお門違いって類のものなんだ
生き急ぐなんて言葉を使いたくなる瞬間があるときには
詩など書かずにユーカリのオイルでも焚いて眠るべきさ
そんな気分は残しさえしなければ
明日自分を馬鹿にしなくて済むというものだ
無責任でいいけど
衝動のままじゃたぶんだめ
瞬発力は願ったりだけど
衝動のままじゃたぶんだめ
おもちゃ売場で泣き叫ぶ子供になりたくなければ
自分が引こうとしているラインの種類はある程度理解しておくにこしたことはない
そのままで構わないのは
かっとした気持ちが一度鎮火してからさ
実況中継には意外と
リアルタイムを描くことなんて出来ないとしたものだ
いま汚れたばかりのシャツより
洗濯籠に放置されたシャツの方が不潔に感じるのと同じように
それは整理されるだけのプロセスを経て初めて認識が可能になる
すべての現実は過去として知られる
たとえ未来を歌ったとしても
紙の上じゃそう思ったってだけの話さ
思いを詰め込みすぎるのはよしな
歩道の枯葉を拾うように
少しずつ差し出すならきっと誰も殺さずにすむ