Gaspard de la Nuit、夜のガスパール
rabbitfighter
月の、満ちる夜の、
世界から、少しずつ音を消していく、
地球の反対から初めて、少しずつ、
コーヒー農園で歌われる歌、
山羊のため息、道草する羊飼いの口笛、
サンバ、ボッサ、レゲエ、ロック、
シンクを打つ水滴、下水に流れ込む雨、
夜の、人知れぬ夜の、
川の立てる音、海の立てる音、
ジェット機の爆音、渋滞中のクラクション、
二弦、三弦、四弦、五弦、六弦、
夜の、道行く人の、
乾いた咳、と、聞き間違えてしまうくらいに、乾いた足音、
カラン、コロン、
いくつもの街から、夜の、ざわめきを、罵りを、詩を、愛を、失望を、
それらの音を余すところ無く消していく、
ほら、
鼓動も、
消してしまう、
そうして残ったのは、トリルとアルペジオ、
頭の中の、消せない耳鳴り、
眠れない夜の、唯一の、独奏、
耳を傾けろ、その耳鳴りに、トリルとアルペジオに、
夜、あなたの名前は、夜、
朝が来れば、死んで灰になる、