置き手紙
千波 一也
潔いさよならを
口づけられて
風は目覚める
おびえたように
冷たく急ぎ
風は目覚める
それを
避けるでもなく
受け入れるでもなく
花は巧みに散ってゆく
孤独の定義を
連れてゆく
ここにある私も
いつか昔語りとなるならば
取り返しのつかない
過ちとして
しずかに咲く日が
来るのだろうか
幾重にも
あざやかに
嘘がための嘘として
黙って揺られて
いるのだろうか
ひとの手が
生みだすものと
滅ぼさざるを得ないもの
その
どちらにもなれない溜息を
今年もまたひとつ
幾度と知れず朱にまみれても
変わらぬ気品の
秋の途中で
私は私に
使い古される
けれどもそれは
懐かしすぎて
伝える言葉は褪せたりしない
ただ少しだけ
日に灼けやすい
大人のつもりが
長ければ
なお